ほとんどのバイヤーは「買わないバイヤー」であると言うことについて

ほとんどのバイヤーは「買わないバイヤー」であると言うことについて

大手のセレクトショップや百貨店のバイヤー、
と聞くと、なんかカッコイイ仕事のように聞こえる。
仕入れ担当、と聞くとインナー向けの消費財、
文房具とか、OA機器とか、そんなものを自社のために仕入れている人のように感じてしまう。
(それがダメと言う話ではなく)
やはり、バイヤーが一番カッコイイ気がする。

「だって、
自分のセンスや判断一つで商品を買い付けるんでしょ?
海外とかにも行ったりするんだよね?
売れる商品をどんどん仕入れて、
このお洒落な店のお洒落な商品、みんなバイヤーが揃えているんだよね?
凄い。素敵。」

みたいな印象を、もしかしたらお持ちになる方もいらっしゃるかも知れません。
かく言う私も百貨店に入社した理由はこれ、
「バイヤーになりたいから」でした。

さて、このバイヤーと言う仕事。

自分自身の経験を基に、「買う」と言う言葉の概念を紐解きながら、
一つ実態をお伝えします。
この実態を知ることで、もしかしたらあなたのプロダクトが「店頭に並ぶチャンス」が増えることを願って。

「買わないバイヤー」もバイヤーである、
ということ。


買わないの反対は「リスクを取りながら新しい商品を買う」になります。

これを仕事・業務にしている大手小売のバイヤーは、肩書きに「バイヤー」を持っている人のうち、
実際2割もいないという事実を先に述べます。

正確に言えば、
買わない=前金で仕入れ代金をメーカーに払わない、
ということです。
仕入れ代金を先に払わないのですから、
その時点で「買う」と言う言葉が当てはまらないのはご理解いただけると思います。
そう、
つまり、ほとんどのバイヤーは「買わない」バイヤーなのです。

買わないバイヤーには、
既存取引先から一定量の商品を仕入れること前提(慣例)のお付き合いの基で、

「何を入れるかの選品は取引先(メーカー)に任せる」
「仕入れ伝票を切る」「返品伝票も切る」
作業はする、
「前任者が決めた定番商品をそのまま仕入れ続ける」ことしかしない、
「既存の取引先別の、店頭商品の構成比だけを半期毎に弄るだけ」
「全商品買取委託(もしくは売仕)取引でしか取引をしない」・・・などなど。

ちょっと言い方に語弊があるかも知れませんが、
上記のような業務だけを行うバイヤーも含まれている、と考えていただいて結構だと思います。

つまり、

・前金でお金を全て払う。
・新しい取引先から新しい商品を多数仕入れる。
・自分(自社)のリスクでモノを作り、それを自前の販売スキームで売る。
・そこで得た利益が唯一最大の飯のタネ。

のようなバイヤー像とは趣を異にする、ということです。
もちろん彼らも「買うバイヤー」同様、店の商品構成品揃えを決める権限は基本的に有しています。
ですので、「扱う商品を決める」けど、それを買うわけではない。
「買わない方法で商品を揃え、店頭を作るバイヤーである」とご理解ください。

先に断っておきますが、私はここで、
「商品を買うバイヤー」だけが偉い、と言う話をするつもりはありません。
どんな業務内容や取引手法であろうとも、
半期毎にきちんと売上と仕入れのキャッシュフローを一定量生み出して、
市場(雇用含む)に貢献していれば、
その仕事に価値は十分ある、と思うからです。
そもそも、その商品を買うバイヤーの「仕事」が非効率な側面も少なくないが故に、
それを無くしてきた経緯が、日本の流通業全体にあるのも事実です。
(もちろん、功罪あります)

私はただ、特にバイヤーに「買って欲しい」とお考えの人たち、
つまり、モノを作る方々、メーカーさん、クラフト作家さん、
アクセサリーや雑貨のデザイナーさん、その他多くの販路をお探しの方々にお伝えしたいのは、

バイヤーという肩書きを持つ人全員をイコール「買う人」と思ってはいけない。

ということなのです。

バイヤー、と一口に言っても、
彼らは本当に様々な仕入れ環境や仕入れ方針、仕入れ条件を背中に背負いながら、
展示会・商談会に参加しているのであって、
決して「買う」ことだけが目的とは限らないのです。
それでも小売のビジネスはそこにあります。

買わなくても「商品を回す」ことはできるし、
「お金を回す」ことができる。

そんな商条件の上で成り立つ商売があることは多くの方々もご存知だと思います。
それでも、多くのお金が実際にマーケットで飛び交うこと、
これは小売に限った話ではなく、「掛け」の概念をご想像いただければお分かりいただけると思います。
しかし、
何か余程過去に痛い目に合った、とか、
商品を全て持ち逃げされた、とか、
そこまで具体的な被害に遭われた理由でもなく、
とにかく「買って欲しい」「前金でください」と言うことをおっしゃる方たちは意外に少なくなく、
(当然、相応の理由がおありでしょうから、それが一概に悪いわけではありません)
自分の商品だけは「買って貰う」こと前提でしか商談が進めない方が多いのも事実です。
(そしてもちろん、上記の内容をきちんと把握なさってる方々もたくさんいます)

最初に述べた、
バイヤー然とした、本当に「商品を買う」バイヤーももちろんいらっしゃいます。
しかし、その人の背負った会社や売場の商売環境や、
事業スキームが「買う」こと前提で成り立つ業態であるから、彼らは「買う」のです。
ですので、本当の意味で「買って欲しい」時は「商品を買うバイヤー」を掴まえる必要があり、
そうでなければ、「買って貰える可能性はほぼ無い」と知る必要がある、
と言うことです。

なぜ、こんなことを敢えて書くのか、

先にも述べましたが、
それは、大手流通チャネルに乗せることを前提でモノを作っている方々が、
「買って貰う」ことだけを念頭に「買わないバイヤー」と商談することで、
「完全買取」以外の取引条件を完全にシャットアウトし、結果、
多くの商機を逸している、そんな様子を非常に多く目にすることがあるからです。

大切なのは、「小売」に買って貰うことではなくて、
「お客様(消費者)」に買って貰うこと。

その為にモノ作りをなさっているのでしょうから、
まずは市場に送り出すことが大切ですし、
お客様の目に触れることが何より大切です。

小売側のリスク回避を嫌悪した結果、
その商品が全く市場に出回らないのだとしたら、
それはとても勿体無いことです。

新たな販路開拓には常にリスクも伴います。
増してや、買わない小売との商売による生産者側のリスクを想像し、
それを嫌気する心情も理解できます。
しかし、そのリスクもコストとして定量的に想定できれば、
それを以て導き出された様々な経費要素を土台にしたモノ作りを、
最適解として持つノウハウに繋げることが出来るようになります。
そのためにもまずは商売を始めてみないと分からないことがたくさんあります。

もし現状、販路がなく、商品展開が計れていないのならば、
売上そのものがほとんど獲得できていないのならば、

「買われなくとも、とにかくまずは商売を始める」
懐柔策も考慮に入れる他ない、と言う考え方やスタンスの変換、柔軟化が必要だ、と言うことです。

「買わないなら売らない」と一元的に即座に決めてしまうのではなく、
「どう取り組めばお客様の手に届くのか」を考えていただきたいし、
それにより発生する想定外のコストや手間、リスクを一旦ご自身の商ベースと戦わせてみて、
出来ることならば、想定内に鞍替えさせていただきたいのです。

私の仕事はそんな「売り手側の事情」と「買い手側の事情」をマッチングさせることでもあります。

モノを作る側も、それを売る側も、
共に歩み寄りながら、お互いの事情をしっかりと理解し合い、
リスクを分散させながら、時には呑み込み合い、
コミニュケーションを怠らず、
お互いの得意なことを全力で発揮し、
きちんと消費者と向き合う土壌。
オンライン・オフライン限った話ではありません。
そんな土壌・場作りがとても大事だと思います。

そんな土壌作りに貢献させていただければ、
と考えています。

いずれにせよ、
遥か昔、貨幣経済が始まる前、物々交換の時代から、
「売り手」と「買い手」の立場はいつだってイーブンであるべきです。
それぞれに背負う環境について、相互理解と邂逅の場を作っていかないことには、
今後ますます日本のモノ作り・産業は衰退していってしまうと思います。
そして、その衰退は、顕著に日本全体に暗い影を落としていくこととなるに違いありませんので。

管理人H